多系統萎縮症の自然歴 横関明男

以前本ブログで、当院で実施した多系統萎縮症(multiple system atrophy、MSA)の死因に関する当院での臨床研究の結果を紹介させていただきました。幸い、ご覧いただいた方がおられたということで、今回も多系統萎縮症に関する情報を提供させていただこうかと思います。

今年の夏に英国の医学雑誌Lancet Neurology誌に、「Natural history of multiple system atrophy in the USA: a prospective cohort study」というタイトルで米国での多系統萎縮症の自然歴に関する報告がありました。タイトルにあるnatural historyは自然歴であり、病気がどのような経過で進行していくかということです。実は、本研究が報告される2年前、2013年にもこのLancet Neurology誌に「The natural history of multiple system atrophy: a prospective European cohort study」という、ヨーロッパでの多系統萎縮症の自然歴の報告もありました。そのため、今回は欧州の研究結果と比較しながら、米国からの報告を紹介させていただき、さらに個人的(偏見? )見解を述べさせて頂こうと思います。

本研究は、米国の12の施設から合計175人の多系統萎縮症の患者さんがエントリーされました。エントリーされた時点の患者さんの平均年齢は、63.4歳でした。各施設で経過観察し、患者さんの運動機能や生存率など、今回エントリーされた患者さんの集団の経時的変化を報告しています。
今回エントリーされた患者さんのうち、MSA-P(パーキンソン症状が主体のMSA)が126人、MSA-C(小脳失調が主体のMSA)が49人であり、MSA-Pの患者の数が多かったです。人種は、白人が162人、アジア人が9人、その他が4人と白人が主体でした。MSA-Pの患者さんが多い点は、ヨーロッパからの報告も同様です。一方、日本ではMSA-Cの数が多く、この点は日本と欧米との大きな違いです。

2013年のヨーロッパからの報告の違いは、本研究では、MSA-PとMSA-Cで生存率に違いはありませんでした(ヨーロッパからの報告では、MSA-Pの方がMSA-Cより生存率が悪いという報告でした)。一方、重度の自律神経※症状(起立時に収縮期血圧(上の血圧)が30mmHg、拡張期血圧(下の血圧)が15mmHg以上の低下、尿失禁や陰萎(男性の場合))を認める群は、生存期間の中央値が8.0年(95%信頼区間6.5-9.5)、重度の自律神経症状が無い群の生存期間の中央値は10.3年(95%信頼区間9.3-11.4)であり、重度の自律神経症状がある例では生命予後が悪いということも報告しております。
(※自律神経について:自律神経という用語はよく耳にするのではないかと思います。自分の意思では支配できない心臓、血圧、呼吸などに働く神経を意味します。具体的には、脈拍数(1分間に心臓が収縮する数)や血圧は、自分の意思ではどうすることもできません。このように自律神経の多くは、一般的に、生命維持に重要や役割を果たしています。)

個人的な意見としては、自律神経障害がある例では生命予後がよくないというのは、医学的にも妥当な結果ではないかと思います。自律神経は、生命維持に必須の神経であるため、その自律神経の症状は、生命予後に直結するといえそうです。一方で、本研究で死因や突然死に関する検討がされていないのは残念なところです。(ひょっとすると、データはあるが、後で別の論文として報告するのかもしれませんが…。) 多系統萎縮症において、自律神経障害が目立つ場合には、より注意深い経過観察が必要であるということは言えそうですが、実際にどのように対応すれば、生命予後を改善するのか?という点も、全く分からない(特に突然死の予防)ため、医療の現場では手探りの試行錯誤をしていく必要がありそうです。

神経内科 横関明男