年齢と筋肉の萎縮、衰えについて 青木賢樹

齢(よわい)〇〇才(←秘密です。)とならんとして、初めて筋力の低下に気がつくことが多くなってきました。階段を上るのも然り、恥ずかしながら風呂場で下着を履き替える時のふらつきも然り、もたついてバランスを崩すことが急に多くなってきています。悲しいことに、朝、布団から起き上がるときに、手を使うことも多くなってきました。はあー、なんと情けないことか。そうしたら改めて父親・母親の老化にも、目がいくようになってきました。悲しいことに、明日は我が身と、しみじみと身に染みることが多くなってきています。

医学的なトピックとしては、2017年12月に、「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」が発表になりました。サルコペニアとは、加齢や疾患により、骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下と定義されます。詳しい内容は、別途みていただければと思います。
サルコペニアは、失礼な言い方でありますが、「廃用症候群」と言われる病態に近いと思っていました。体や筋肉を使わないから委縮するというだけではないため、やや言い方に乱暴さがありますが、病態は似ていることが多いようです。

よく知られていることですが、年齢とともに脳も委縮しますし、筋肉も委縮していきます。あらゆるものが老化して、衰えていくのは間違いありません。つまり老衰も、大部分のところ、似ているものと考えられています。

年齢と共に筋肉量の減少するグラフについて、多くの研究者から報告があり、それらによると、だいたい20歳頃と比較して、60歳では上肢で約10から20%、下肢で20から40%程度、筋肉量が低下していきます。男性は女性よりも減少率がさらに高いようです。この性別による差は、女性は、もともと筋力が少ないからかもしれないのですが、男性については60歳頃から、急激に筋肉量が減少することが一般的なデータとして存在しています。そして70歳ではさらに低下していきます。無論例外の人もいらっしゃいますし、90歳でもしゃんしゃんと歩いて生活している人がいらっしゃるのも事実ではありますが、自分がその稀有なグループに入るものと勘違いしないほうが賢明だろうと、最近身に染みているところです。
筋肉量の20歳からの変化率

 

タニタホームページより

上肢筋肉量下肢筋肉量体幹部筋肉量

谷本秀美、他「日本人筋肉量の加齢による特徴」日本老年医学会雑誌47巻(2010年) より

日本は長寿の国として有名ですが、「健康寿命」を知っている人は少ないと思われます。健康寿命とは、平均寿命のうち、健康で活動的に暮らせる期間のことで、2016年の厚生労働省の調査では男性で約72歳(平均寿命は約80歳)、女性で約74歳(平均寿命は約87歳)でした。つまり男性は約8年、女性は約12年、残念ながら健康でない状態で生きていくとデータは示しているのです。

健康寿命のグラフ

健康寿命のグラフ(2018年3月8日の報道を元に作成)

年齢の平均と比較して筋肉量が多いことは、動く時に非常に有利で、転倒も少ないと予想されます。筋肉は鍛える(使う)とどの年齢でも増えていき、使わないと萎縮(退化)していくとよく言われています。50歳で何もせず1週間休むと元の筋肉量になるには3週間程度の時間と運動が必要と言われています。70歳では、たった1日動かないと回復するのに1週間必要だと言われています。宇宙飛行士が約3週間ほど重力のない宇宙で生活し、宇宙船内で自転車漕ぎなどの運動を一生懸命していても、無事に地上に降りた時に立てなくて運ばれていく姿が放映されているのを見ると、そういうことなんだろうなと思います。重力(=体重)に対抗して動いていることが大事なようです。

現時点では、ある程度の運動をして筋肉量を減らさないようにしつつ、少しでも筋肉を増やすしか方法がないと思われます。筋肉は、アミノ酸(たんぱく質)でできているので、食事でたんぱく質を摂って運動をしていくことが重要です。運動だけして極端に食事を制限したりすることは、今ある筋肉がエネルギーに変わって(糖新生)個体を維持するために使われてしまい、むしろ逆効果になってしまうようです。
毎日どれくらいの運動が必要なのかは、人それぞれによるとは思います。また、心臓や腎臓など内臓機能のことも考慮に入れて運動しないと、事はうまく運びません。

高校生の頃、金沢に巡業に来ていたプロの力士が、人を一人担いでスクワットをする姿を見ました。つまり、体重の2倍ぐらいまで脚に負荷をかけていました。すごいなーと思いましたが、よく考えると、人は歩く時には片足ずつで立っているわけで、片足立ちで自分の体重を支えないと、歩けないはずです。スクワットは両足で行うので、仕事量としては約2分の1の分担と考えるなら、もう一人分の体重を担いでも可能なはずです。理論上はそれほど大きな負荷ではないはずですが、実際にやってみると大変な運動で、5回もすると疲れてしまいます。子供の頃、少し歩くと疲れて、お母さんにおぶってもらった記憶があるのですが、今は1時間歩いても、あまり疲れたとは感じないので、その分の筋力、体力はついているのでしょうが、負荷から考えると、まだまだ、運動して筋力をつけるには程遠い感じです。つまり、スクワットは理論上は大した運動ではありませんが、やらないよりは、ずーっとましです。

そして、年を取ってからでも、ある程度の負荷がかけられた運動をしていかないと、筋力が維持できないことになります。自分の体重分を片足で約30~50cmは前へ押し出す筋肉(大腿二頭筋や半膜様筋群)と、その時、体を支える筋肉(臀筋群や傍脊柱筋)、また着地の時に自分の体重を支える筋力(大腿四頭筋)が、それぞれ必要となります。

まずは、フロントランジといって、70〜80cm(自分の身長の半分の長さ)ぐらい大きく片足を前に出して、前の足の膝を90度程度深く曲げ、残した足は膝が床につくほど伸ばして、ゆっくり元の姿勢に戻る運動を交互に左右片方ずつ行うのはいかがでしょうか。フロントランジの方法はYouTubeなどでも見ることができます。
毎日ちょっとした時間があればどこでもできる運動です。少なくとも交互に10回程度はしないと効果が現れないかもしれません。これはなかなかきつい運動ですが、バランスも崩れないようにしながら行うことがまた大変です。自分のペース、筋力に応じて少しずつ行っていくことが大切です。足首など痛めたら、少し休むのも大事です。最初は、テーブルの角などでつかまりながらするのも良いでしょう。

また、可能なら片足でのスクワットもよいですね。右足に体重の80%、左足に20%かけるのを意識して、スクワットを10回、足を変えて、右足に20%、左足に80%でまた10回、を交互に行うのも良いと思います。やるならば、スクワットは少し前屈みなほうが、臀筋を使うようです。自分でお尻を触ると筋肉が固くなるのがわかります。

下肢の筋力が低下してくると、歩幅が小さくなり(自分の体重を前に押しやれない、片足で自分の体重を支えられない)、片足で支えて片足が宙に浮かせられないので、パーキンソン病のすくみ足のように、ちょこちょこ歩行になります。また、椅子に座るときも、膝を曲げて体重を支える筋力がなくなり、ゆっくり座れないので、ドスンと座ることになり、お尻を痛める危険性もあります。また、布団や床など低い位置から立つ時に手の支えが必要となります。
今、自分の筋力を考えて、このような状態に当てはまる人がいらっしゃれば、少しでも運動をすることを進めます。ただし、内臓関係の病気の人は、まずは主治医に相談してから行ってください。また運動した時に、ふらついて怪我しないように十分安全性に配慮して、少しずつ行えるように工夫してください。あくまでも運動上の怪我は自己責任となりますので、よろしくご配慮お願いいたします。